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2011年6月28日火曜日

10年熱中症死亡1718人の驚愕 訪問援助活動に取り組みましょう

627日付け共同通通信は「厚生労働省は24日、2010年の熱中症による死者が1718人に上り、過去最多を記録したと発表した。これまでの最多は07年の904人で、約2倍に達した。」と配信しました。平成22年中の交通事故による死者数は、4,863人です。熱中症死亡はその35%です。今回の震災は「想定外」の天災という言い方がされていますが、熱中症死亡はそれとは違います。天災と片付けられるものではありません。給水・涼しい環境が確保されれば確実に回避できるものです。社会的援助が欠けるためおこる人災の一つといえます。
「厚労省によると、年齢別では、65歳以上が1362人(全体の79・3%)で、高齢者が大半を占めた。場所別では、家の中や庭が783人(同45・6%)と、半数近くが身近な場所で熱中症になっていた。」(同 共同通信)これまでの調査でも、貧困や認知症・身体障害などによる対処能力の低下しているひとがハイリスク集団になっています。
「熱中症のため6月20日から26日にかけて病院へ搬送された人は全国で2996人に上ったことが、総務省消防庁の速報値で28日分かった。先週の猛暑が原因で、前年同期の5・3倍に当たるという。」(628日)今年は昨年よりリスクが高そうです。
 近年、国・地方自治体はテレビをはじめとするマスコミを通じて啓発活動を強めています。しかし被害を減らすにはきめの細かいマンツーマンの指導援助が重要です。この点ではほとんど前進していません。そして国は724日には地上アナログ放送を終了し、地上デジタル放送に完全移行するとしています。95%以上が地デジ対応済みと言われています。私は、熱中症ハイリスク集団の方が、残った5%の地デジ未対応集団に相当数含まれるのではないかと危惧します。テレビを通じた熱中症対策の啓発も届かなくなります。30度を超える炎暑環境の下に情報もなく孤立した高齢者が衰弱する姿が目に浮かびます。本当に724日に地デジ完全移行して大丈夫なのでしょうか。慎重な判断が求められます。
 いよいよ7月梅雨明けを迎えるこの時期、様々な個人・団体が熱中症予防対策のための訪問援助活動に取り組まれることを呼びかけます。それを通じて地デジ対応実態把握も重要です。

2011年6月27日月曜日

仙台にて

 「東北はどうでした」。311日以降何人もの患者さんから聞かれた。私ならきっと真っ先に支援に出かけていっただろうと思っているのだ。阪神大震災の時は翌日から支援に行ったのだが、今回は毎日の診療にかまけて東北に行けずにいた。
 625日ようやく仙台に来ることができた。被災者を診察するでもなく、がれきのかたづけをするのでもなく、ただ被災地を見学に来た。後ろめたさを感じたが、自分の目で見たい、自分の耳で聞きたいとの思いで一泊二日の日程で来た。
 土曜の午後の伊丹仙台便は50%ぐらいの搭乗であった。その半数は支援者のようだ。仙台空港に着陸間近の飛行機の窓から見た太平洋は穏やかであった。テレビで見た荒れ狂った津波はどこにもない、311日以前の海だった。壊滅的な被害にあった空港は、急ごしらえの仮設の施設で営業していた。仮設の到着口兼出発口、仮設のトイレ、小さな土産物スタンド。急ごしらえの案内掲示。不慣れな道案内の職員。空港連絡鉄道は休止したままで、空港駅に停車していた。
 バスの中は乗客の9割が男性で奇妙な沈黙が続いた。カメラをだして写真を撮ろうとする人もいなかった。みんな緊張しているようだった。空港周辺のがれきはかたづけられており復興は進みつつあるのかと思ったが、すこし進むと逆さにひっくりかえった車、工場の庭に山のように積み上げられた車が見えた。高速道路の海側と山側で景色が違った。海側では田んぼのあぜ道に青々と雑草が生えていたが、田んぼは黒い土が露出し何も植えられていなかった。一方、山側では青々と稲の苗が育っていた。高速道路の盛り土が津波の被害を分けたのだ。
 仙台市街に入ると車が多く、交通渋滞もあった。駅周辺には、パチンコ屋もヨドバシカメラも普段どおりに営業していた。仙台市内には若い人が多かった。駅周辺に多くの若者がたむろしていた。ファッションもどこでも見られるものであった。これも311日以前と同じ光景なのだろう。でも大阪とは違って大声で騒ぐ若者は見られなかった。仙台駅は改修が中途で施設の応急処置がめだった。土産物売り場は仮設で、駅構内の天井の仮のパネルが目についた。そして「がんばろう」の掲示が目についた。復活した日常の中に、被害の非日常が同居していた。
 夜に訪れた繁華街も人が多くて驚いた。土曜日だからか。何軒かの店に満席で断られた。ようやく入れた店の人に聞くと、「最近、賑わいが戻ってきた。保険金が下りた人が多いのだろう。復興関係の長期滞在者も多い。」とのことである。同席してくれた仙台の知人の話では「被災地といっても、ここの人で事情が全く違う。棚からものが一つ落ちただけの人から、家族も家も失った人までいる。一口に復興といっても温度差があるんですよ。」実態はそうなのであろう。友人は付け加えた「自分は最も困っている人に寄り添い続けたい」と。
 翌日は仙石線で海の方にむかった。電車の中は大阪と変わらない。携帯メールをする人、勉強する人。列車の窓から外を見ると、きれいな家並みが続いた。でもその中に瓦の落ちた家、修繕工事中の住宅、応急処置後の駅舎が見られた。瀟洒な住宅街に仮設住宅群がひっそりと立っていた。
 中野栄駅で降りて、タクシーに乗った。運転手さんに「津波の被害に遭ったところを見たいのですが」と口ごもりながら言ったら、気持ちよく乗せてくれた。お客さんが屋上に避難して救出を待ったスーパー、救援が入れず死体が累々と放置されていると報道された住宅地、農業用ビニールハウスが次々と流された農村。テレビで聞き知っている地名が次々に出てきた。ここで多くの人が亡くなったと思うと胸が痛くなった。誰も住んでいない地域が続いた。海岸に密集して植えられていた松林は津波に流され歯抜け状態になっていた。そして流された松の大木がそこかしこに残っていた。運転手さんが「写真を撮ってもいいですよ」と言ってくれたが撮れなかった。一回りして中野栄駅に戻った。駅の近くのアウトレットモールが昨日から営業を再開し多くの人が集まったと聞いた。併設された大観覧車も運転を始めていた。ここにも日常が戻りつつある。被災地でも非日常と日常が混在していた。
 仙台は「ガンバロウ」の洪水であった。「ガンバレ」では上から目線が感じられる。「ガンバロウ」はそれよりはずいぶんましだが、そう言ってがんばれるのはまだ余裕のある人のような気がする。「ガンバロウ」は「こんなにがんばっているのに、まだがんばらなくてはならないのか」の気持ちをおこす。切羽詰まってじっとこらえている人にはつらい響きがあるのではないか。そんな気がした。日常に生きているものが非日常にいる人に対して言える言葉ではない。
  帰りの空港で見つけた「これからも宮城で」(キリンビールのポスター)「私たちはいつもそばにいます」(空港の寄せ書き)が心に残った。これからも最も困っている人のそばに居られるように感性を研ぎすましていきたい。


2011年6月18日土曜日

原発事故の健康リスク

アメリカの医学雑誌NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICIEN 6月16日号は原発事故の短期的・長期的健康リスクと題する総説を掲載しました。http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra1103676
以下 その一部を紹介します。

増加した長期の発がんのリスク
チェルノブイリ地域では、500万人以上が被ばくした。それは主には、I131とセシウム同位元素の汚染による。原子炉からの降下物に暴露されても急性疾患は起こらなかったが、長期の発がんリスクを上げるだろう(may)。日本の原爆被爆者の研究では比較的低い線量に暴露されても白血病と固形がんの発症は明確に増加した。しかし、原爆被爆と原発事故に伴う被ばくでは被ばくのタイプも線量も重要な違いがある。その違いが、チェルノブイリ地域の白血病と甲状腺がん以外の固形がんの研究で明確なリスクの増加を示さなかったことを説明している。あるいは、がん登録を改善しそして長期のフォローアップをすると白血病と甲状腺がん以外の固形がんの増加がよりあきらかになるだろう(may)
スリーマイル島では事故後の数年は一時的ながんの診断の増加があった。しかし、それはその地域でのがんのスクリーニングの強化の結果であったのであろう。長期のフォローアップではがんの死亡率の増加はない。

甲状腺癌の増加は明らか
しかし、I131 を摂取した小児の二次的甲状腺がんの増加の強い証拠がある。チェルノブイリ原発の近くに住んでいた小児の慎重な研究は甲状腺の被ばく線量1グレイごとに2から5倍に甲状腺がんのリスクが増えることを示している。相対リスクの増加は大きいが、小児の甲状腺がんのベースライン相対リスクは低い(10万人で1例未満)。I131発がん作用を増加させる要因としては暴露時の年齢が低いこととヨード欠乏の状態がある。ヨードが不足している地域の小児は、ヨード摂取が正常の地域の子供の1グレイあたりの甲状腺がんのリスクは2から3倍である。さらに、チェルノブイリ事故後安定ヨードを投与された小児は、されなかった小児の3分の1の甲状腺がんのリスクである。胎児や成人の甲状腺被ばくの影響はまだ結論が出ていない。I131が放出される事故の場合、影響のある地域の人は地域の生育した生産物や水を摂取することは最小限にするべきである。しかし、I131の半減期はわずか8日であるので、地域の生産物は2から3か月後はI131を含んでいない。

ヨード剤の摂取について
公衆衛生担当者の勧告によって、I131が甲状腺に集まるのをブロックするためにその地域の住民はヨードカリを摂取するでしょう。最も効果的には、I131に暴露する前か数時間以内に摂取するべきです。新たな被ばくや被ばくが継続することが予想されなければ、暴露してから一日以上経つとヨードの摂取の効果は限定的です。ヨードカリは毒性作用を持っているが、チェルノブイリ後のポーランドの集団投与の経験は安心を与えるものです。ポーランドでは1千万人の小児・成人がヨードカリを投与されたが副作用で病気になったものは非常に限定的であった。FDAは年齢と予想される被ばくに応じた投与のガイドラインを出している。

2011年6月15日水曜日

Plus de Fukushima

チェルノブイリ事故の健康影響

福島の原発事故をかかえる我々はチェルノブイリ事故の実相を知りたいと思う。現在多く流布されている見解はWHOやドイツ連邦共和国放射線防護委員会の報告である。要旨は急性放射線障害で28名の作業従事者が死亡したが、小児の甲状腺癌をのぞいて有意の癌その他の疾患の増加は認めれられないというものである。(国立がんセンターhttp://www.ncc.go.jp/jp/)

しかし、福島事故直後にだされた反核医師の会ドイツ支部の報告は全く違うものである。(http://www.nuclearfreeplanet.org/articles/ippnw-health-effects-of-chernobyl-25-years-after-the-reactor-catastrophe.html)(http://peacephilosophy.blogspot.com/2011/05/ipnnw-health-effects-of-chernoby.html)

1、低低線量被曝のしきい値仮説は完全に否定されている
2,癌だけではなく癌以外の疾患も増加している
3,原発事故処理作業従事者の90%以上は病気になった。少なくとも74万人が重病になった。 早老化現象がみられる。そして、平均より多くの人が様々な癌、白血病、身体的、神経ー精神の病気にかかりました。白内障が多い。長い潜伏期間があるため、癌の顕著な増加は、これから起こる。
4,遺伝子異常と奇形は直接影響を受けた3つの国で上昇しただけではなく、多くの欧州諸国でもかなり上昇しました。IAEAさえチェルノブイリー事故のために10万から20万の流産が西ヨーロッパであったとしています。
5,胎児の性別の偏位がありました。 1986年以降女性の出生が少なくなった。
6,ベラルーシだけで、大災害以来1万2000人以上が甲状腺癌を発症しています。、ベラルーシとウクライナで、1986年と2056年の間の発生する甲状腺癌は9万2627件と推計されている。
7、チェルノブイリ事故の後に、1976年から2006年の間、スウェーデン、フィンランド、およびノルウェーの乳児死亡率は15.8パーセント増加した。
8、ドイツでは、チェルノブイリ事故の後の9カ月の新生児ののトリゾミー21のかなりの増加が起こっている。
9、ウクライナの3歳未満の子供の脳腫瘍が増加している。南部ドイツのより多く汚染された地区では、小児の非常にまれなタイプの腫瘍(いわゆる神経芽腫)の有意に増加している。
10、ウクライナのチェルノブイリ省によって発行された報告論文は、内分泌腺のシステム(1987年から1992年までの25倍)、神経系(6倍)、循環系(44倍)、消化器官(60倍)、皮膚・皮下の組織(50倍より高い)、筋肉・骨格組織・精神(53倍の)の病気の増加を指摘している。
11,1987年から1996年の間に、避難民の中の健康な人々の数は59%から18%までまで低下している。 そして、高いレベルの放射にさらされた親から生まれた直接被曝していない子供の中の、健康な小児の割合が1987年に81%から1996年30%に低下している。
12,1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)が子供と若者の中で急上昇した。

まず事実に謙虚にならなければならない。

2011年6月12日日曜日

原発事故と健康についての民主的自主的かつ科学的議論を

報道によると国立がんセンターは6月22日、現在の放射線の影響が「安全という立場」「危険という立場」の識者を同センターに招き,エビデンスに基づいた医学的公開討論会を実施する。同センター理事長の嘉山市は「エビデンスは1つ。どこまで分かる,どこまで分からないのかをはっきりさせ,そのデータを福島の例にどれだけ役に立てられるかを議論したい」とのべている。公開討論会の成功を大いに期待する。
放射線の人体への影響、とくに長期低線量被曝が人体にどのような影響をおよぼすかについて事実と根拠にもとづいて議論する必要がある。100mSVにしきい値があってそれ以下なら安全といえるのか。議論を大いにしていただきたい。検討すべき健康影響は発がんだけなのかそれ以外の妊娠異常や内分泌・循環器・神経精神その他の異常についての報告もある。その点での検討も必要だ。
38億年間生物が自然の放射線にさらされて生き抜いてきたことは事実だが、人類の文明が始まって以降、大量の放射線が多数に浴びせられるようになったのはアメリカの原爆開発以降の65年である。その間、広島・長崎をはじめ各地の原爆実験場、スイーマイル・チェルノブイリ・福島などの原発事故で多くの人が被曝してきた。しかし長期低線量被曝の人体影響についての定説がいまだ確立していない。
それはまだ発がんが数十年の経過でおこるためまだデータが少ないことがひとつの要因である。しかしそれだけではなく被曝者の個々の被曝線量と健康状態を把握した科学的研究がないこと。また健康調査のデータが公開されて、すべての研究者が入手できる状態になっていないことも原因だ。
そして議論を複雑にしているのが、核兵器と原発を保持し続けたいという一部の国家の意思があることだ。その立場から放射線の影響を少なく評価したいというベクトルが働いている。原発の安全を確保するべき原子力保安院が推進する通商産業省のもとにあることが批判されているが、国際機関であるIAEAICRPも同様の危険がある。
今回の福島第一原発事故の被曝者については長期に渡る健康管理の徹底をはかるとともに個々の被曝量・健康状態のフォローを行う必要がある。それが日本の医師の人類の未来に対する使命と考える。
「私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。」(ヒポクラテスの誓い)

2011年6月2日木曜日

東日本大震災を経験した日本がなぜ今、リニア中央新幹線をつくる必要があるのか

新聞報道によると、国土交通省は5月26日JR東海を建設・営業主体に東京・大阪間のリニア中央新幹線の建設を決めました。2027年に、東京 - 名古屋間を最速で40分で結ぶ予定です。東京都 - 大阪市の全線開業は2045年の予定で、東京 - 大阪間を67分で結ぶとされています。概算の建設費は9300億円(車両費を含み、利子を含まない)です。

東日本大震災に復興費用は、20兆円を超えると推計されています。その財源を捻出するために、今年度は公共事業費を5%カットしました。そして国家公務員給与を10%カットがすすめられています。さらに消費税値上げ、年金支給年限の引き上げ、医療費の窓口負担の引き上げ案が出されています。その時になぜ、復興費用の50%に及ぶ大型公共事業をする必要があるのか、私には理解できません。よく解らないままこれをすすめることは、日本国民の将来を誤らせることになると考えます。国民一人一人がよく考える必要があります。

リニア新幹線推進する日本政府は議論をすすめるために、国民に対して以下の点を説明してください。
1,リニア新幹線は採算がとれる事業なのか。波及効果としての、東海道新幹線・航空路線の採算への影響はどうなるのか。
2,リニア新幹線の日本経済への影響はどうなるのか。どんな効果が見込まれるのか。雇用を増やす効果はあるのか。
3,東京・大阪間2時間25分を1時間6分にすることが、日本人の生活と幸せにどのような意味があるのか。

我々の力には限りがあります。被災者支援に防災対策に国民福祉に費用をかけるべき課題は山積しています。なぜ今、リニア中央新幹線なのか良く考えてみる必要があります。津波の映像をみて流した涙が無駄にならないようにしなければなりません。