低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(以下「WG」)は細野豪志原発事故担当大臣の要請に基づき、放射性物質汚染対策顧問会議の下に設置され、11月9日に初会合をおこない8回の会議の後12月15日WG報告書をまとめた。http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/twg/111222a.pdf
WGの見解と提言要旨
1、科学的には100mSv以下の低線量被曝の発がん増加は科学的に証明されていない
2、被曝量に比例して直線的に発がんが増加するとの見解をとるにしても低線量の被爆は交通事故や肥満や喫煙のリスクの方が高い
3、子どもの生活環境の除染を優先する。校庭・園庭の空間線量率が毎時1マイクロシーベルト未満とする。長期的に追加被ばく線量を年間1ミリシーベルト以下とする
4、放射線防護措置を実施するに当たっては、それを採用することによるリスク(避難によるストレス、屋外活動を避けることによる運動不足等)とのバランスを考えることが必要
5、福島県は20年後を目途に、がん死亡率が最も低い県を目指し、がんに関する対策については、世界に誇れる地域となるべきである
私の意見
ア、4の放射線防護措置のメリットとデメリットを考える必要があることは賛成である。また生活の場については個々人の納得に基づく自己決定が必要だ。しかし補償額や除染費用とのバランスで防護措置が左右されてはならない。被害者の利益が最優先される必要がある。
イ、1の科学的に証明されていないというのは、広島長崎の被爆者の疫学研究に基づいて言われている。100mSv 以上は疫学的に証明されていることは異論がない。しかし100mSv 以下は疫学的に証明するに至っていない。対照群でも罹患率が非常に高く優位の増加を疫学的に証明することが難しいからである。100mSv以下は影響がないということが証明されているわけではない。
福島の参照事例はチェルノブイリの事故である。事故後25年しか経過しておらず被害の影響も確定していない。今後発がんについての事例も集積されることになる。またがん以外の他疾患についてもデータを集積する必要がある。現在進行中である。さらに言えば、福島の事例の集積が低線量被曝の健康影響の事実を明らかにする。
ウ、2の低線量被曝より交通事故や肥満や喫煙のリスクの方が高いと言う見解は臨床医としては奇異に聞こえる。臨床現場では多くのエネルギーを費やして交通事故や肥満や喫煙のリスクを低減するよう努力している。低線量被曝はそれよりましだから甘受しろと言うことにはならない。回避可能なものは全力をあげて回避しなければならない。
エ、3では長期的に追加被ばく線量を年間1mSv 以下にするとしている。公衆一般の被爆線量限度は年間1mSvである。この限度以下にすることが目標である。「長期的に」それを目指すとするのは、事故が起こったのだからしかたがないと事故の責任回避を容認することになる。一刻も早く1mSv以下にする責任が東電と国にある。その時まで被爆事故の責任・賠償義務は継続することをWGは指摘するべきである。
オ、5については異論がない。ただ20年後の結果に誰が結果に責任を持っているのかが問題だ。宣伝文句にしか聞こえない。具体策と進捗の開示が必要だ。
私の結論
低線量被曝の健康影響は疫学的には証明されていないが、何らかの影響があることは否定できない。公衆一般の被爆線量限度を年間1mSv以下にすることは国際的な合意である。東電・国は追加被ばく線量を年間1mSv 以下にする義務がある。がん死亡率が最も低い県になるべく、総合的な健康管理を継続する必要がある。健康被害について全面救済しなければならない。将来、発がん患者の補償を被曝線量で足きりするようなことはあってはならない。
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