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2010年8月7日土曜日

ルース大使の一日(fiction)

 今日は辛かった。ホテルの部屋に戻りふっと溜め息をついた。彼の指示で死没者慰霊式に出席した。日本在勤中にいつかは出たいと思っていたから望むところであった。しかし、本国政府は献花をしてはならない、スピーチもしてはならないというのである。私が式に出席するのは、「第2次大戦のすべての犠牲者への敬意を表明するため」と本国は述べた。どこの世界に慰霊式に出席して花も持たず、「とりたててあなたがたを慰霊しに来たのではありません」という奴がいるだろうか。
 私は彼の理想主義が好きである。核廃絶をめざすと表明したことも支持している。でも国内で支持率が低下した昨今、実用主義的手法が目立つようになった。今回も、私に慰霊式参加させて議会やマスコミの反応を瀬踏みしようというのである。しかし信念もとづく行動をしない限り人は変わらない、支持率も回復しないと思う。
 母からメールがきた。「花を忘れて、慰霊式に出席したんだって。間違ったことをしたら、謝りなさい。前から言っていることでしょう。」
 いつまでも子供扱いだ。でもこれで、踏ん切りがついた。彼にメールを送ることにする。「秋には、ぜひ広島に行ってください。その時は花とスピーチの準備を忘れずに」と。

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