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2011年12月18日日曜日

「高齢者の摂食嚥下障害に対する人工的な水分・栄養補給法の導入をめぐる意思決定プロセスの整備とガイドライン」は「脳死臓器移植問題」に匹敵する日本国民の生死にかかわる問題だ


厚生労働省は平成23年度老人保健健康増進等事業として「高齢者の摂食嚥下障害に対する人工的な水分・栄養補給法の導入をめぐる意思決定プロセスの整備とガイドライン」
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/dls/cleth/guideline/1112ahn_guideline.pdf作成をおこなっている。背景には「高齢者ケアにおいて、食べられなくなった時に人工的水分・栄養補給法を導入するかどうか、導入するとすれば、どのようなやり方にするかは、臨床現場において迷い・悩みの多い問題」がある。ガイドラインは「これをどう考えたらよいかについて、関係者たちの共通理解を形成していくこと」を目的にしている。ガイドラインの必要性については理解できる。

以下、本ガイドラインについて若干意見を述べる。
1. 医療・介護における意思決定プロセス
「医療・介護従事者は、患者本人およびその家族とのコミュニケーションを通して、関係者〈当事者〉が共に納得できる合意形成とそれに基づく選択・決定を目指す。」としている。「共に納得できる」ことが重要だが、本人の意思と自己決定を尊重するのが大前提になる。そのための事前の意思の表明(いわゆる事前指示)の重要性にも言及していただきたい。また医療・介護従事者と患者本人および家族の選択決定だけではなく、利害関係のない第三者が入った倫理委員会等が決定の妥当性を検証できる仕組みが必要だ。

2、いのちについてどう考えるか
「生きることは良いことであり、多くの揚合本人の益になるーー このように評価するのは身体的生命が不可侵の価値をもつからではなく、本人の人生が生きがいのある、前向きに生きられる状況である限り、より長く続いたほうが良いという価値観が私たちの文化において支配的であるからにほかならない。医療・介護従事者は、このような価値観に基づいて、本人にとって真に益となる途を、個別事例ごとに見極める努力をする。」
これは非常に重要な問題である。「本人の人生が生きがいのある、前向きに生きられる状況である限り、より長く続いたほうが良いという価値観」が日本社会の一般的価値観なのか。「本人の人生が生きがいのある、前向きに生きられる状況で」なければ早く終わればいいと言えるのか。意見は大いに分かれると思う。一人の個人でも自分自身の場合と家族の場合では意見が異なることが多いのではないか。国民的議論が必要である。

3. AHN導入に関する意思決定プロセスにおける留意点
AHN導入をめぐって、何もしないことを含め候補となる選択肢を挙げて、公平に比較検討し、医療ケアチームと本人・家族の双方が納得して合意できる点を求めて、コミュニケーションを続け、医学的に妥当であり得ることは当然のことながら、なにより本人の意向(推定も含め)と人生にとっての益・害および家族の負担や気持ち、また可能な生活環境の設定等を考え併せて、個々の事例ごとに最善の選択肢を見出す。」
家族の介護負担や介護施設の受け入れ条件が本人の判断に影響をあたえる可能性を指摘している。それとともに医療・介護の一部負担等の経済的負担の軽減についても考慮する必要がある。
またそもそもこのガイドラインが医療費削減の目的のために使われてはならない。「個々の事例ごとに最善の選択」に対し保健適応が外されたり、保険査定の対象にされたりしてはならないことにも言及していただきたい。

これは「脳死臓器移植問題」に匹敵する日本国民の生死にかかわる問題だ。医療関係者のみならず国民的議論を望む。

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