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2012年3月18日日曜日

橋下徹=脱原発の偽りのイメージはいかにつくられたか 朝日新聞の報道を検証する


「脱原発を唱える橋下さんは社会代表の顔。でも条例案を進める橋下さんは国家の論理に立ち、官僚の代表となってしまっています。」これは、「大阪府教育基本条例 続・私はこう考える」という20120201日朝日新聞朝刊に佐藤優さんが書いた記事だ。当代随一の知識人と目される佐藤優氏でも橋下氏が脱原発を唱えているとの誤解をしている。しかし事実は、橋下氏は一貫して「脱原発」ではなく「脱原発依存」を主張し、原発を存続させながら代替エネルギーへ移行し、原発への依存度を減らすと言ってきたのである。なぜそれが「脱原発」と誤った印象がつくられたのかを考えてみたい。

デジタル朝日の11年3月19日から12年3月18日までの期間)記事を検討した。記事は「橋下」+「原発」で検索した。

橋下氏の原発についての発言は11年4月27日の記者会見からはじまる。
「●原発の新設中止へ負担示す ●今の生活前提なら「必要悪」 27日の橋下知事の記者会見の主な内容は次の通り。《冒頭発言》新規の原発を作らない、(老朽化原発の)延長はしないと目標を立て、その目標に向かって供給サイドと消費者サイドは何をしていかないといけないのか(を考える)。府全体で、原発の新規建設を止めにかかる。(略)最終的にゼロになるかもしれないが、最初からゼロにしようと言うのは飛躍しすぎ。まず新規建設を止めるのにどれだけ負担しなければいけないか、府民に見せる。(略)(原発は)そりゃ、ない方がいい。(略)今の生活を前提にすると、原発は『必要悪』です。」(20110428日 朝刊)

初めから脱原発ではなく、原発は減らしたいが「必要悪」という立場なのだ。これが彼のいう、できれば原発への依存を減らしたいという脱原発依存なのだ。このときは新聞も脱原発とは報道していない。

それが福井県知事敦賀市長との「論争」で橋下氏が脱原発を主張しているかのような記事になる。
「(岐路の原発銀座)知事『福島の教訓、評価不十分』 定検停止中の原発問題 /福井県
一方、大阪府の橋下徹知事の『脱原発』発言について『関西の膨大な電力消費に福井県が協力している。この事実を十分わきまえてほしい』と不快感をあらわにした」(20110514日 朝刊)
「『原発考える契機』 橋下知事、敦賀市長の質問状に回答 【大阪】 商業炉2基などが立地する敦賀市長の河瀬一治氏は2日付で、『脱原発』や節電を掲げる橋下氏に対し、『電源供給地にどんな思いを持っているのか』『どんな時間軸で新エネルギーに代替するのか』といった質問状を送っていた」(20110614日 朝刊) 
「(原発列島ニッポン)核燃ごみ増殖 満杯は目前、行き場なし 原発が集中立地する福井県。西川一誠知事は5月、定例会見で使用済み燃料の貯蔵問題に触れた。東日本大震災を受け、大阪府の橋下徹知事が脱原発発言をしたことに苦言を呈した」(20110626日 朝刊)

これらは福井県知事敦賀市長の誤解もあるが。朝日の誤報ともいえる。

関電との節電「論争」でも橋下氏は脱原発と報道されている。
「平松・大阪市長も脱原発姿勢 八木・関電社長との会談で提案 大阪では、橋下徹・大阪府知事も『脱原発』に言及しており、議論が高まりを見せている」(20110621日 朝刊)
「橋下・大阪府知事、『脱原発』譲らず 八木・関電社長と会談 節電努力では合意
『脱原発』に言及している大阪府の橋下徹知事が21日、関西電力の八木誠社長と会談した。橋下知事は新規原発の建設中止や老朽化原発の操業延長停止を改めて主張」(20110622日 朝刊)

朝日は橋下氏を「脱原発」と報道している。括弧付きだ。朝日は脱原発と橋下氏の言う「脱原発」はイコールではないと考えていたのだろうか。しかし読者は括弧の意味は理解できない。「脱原発」に対し橋下氏は一度も訂正を求めていない。報道に対し執拗にクレームをつける橋下氏だがこの件に関しては報道のままにしてきた。この流れは11年夏まで続く。これで橋下=脱原発のイメージがつくられた。

11年秋は大阪ダブル選挙でここでは橋下氏は明確に脱原発ではなく脱原発依存をうちだした。にもかかわらず、「維新はこの日、内容を充実させた知事選公約案を公表。脱原発とエコ発電の推進のほか、(略)などを打ち出した」(20110916日 朝刊)と報道している。これこそまったくの誤報だ。記者は脱原発と脱原発依存の違いを理解していなかったのか。

11月の時点でも誤報は続く。
「(観)橋下流、三つの力 メディア力・政局力・タレント力 関西電力の節電要請の際には「脱原発」を迫ってみせた」(20111107日 朝刊)
「問う、橋下路線 府民の一票に全国注目 大阪ダブル選 【大阪】エネルギー政策も問われる。関西電力の筆頭株主である大阪市の市長選に立候補する平松邦夫、橋下徹両氏は脱原発の立場だ」(20111110日 夕刊)
「競う大阪像 大阪市長選、きょう告示 【大阪】福島第一原発の事故を踏まえ、エネルギー施策では脱原発の方針を打ち出した」(20111113日 朝刊)
「財界、異例の『中立』 与党支持から一転・政策に不満 大阪ダブル選 【大阪】
一方、関西財界を代表する関西電力にとって、脱原発を訴える両候補はともに警戒の対象。大阪市は関電の発行済み株式数の約9%を持ち、橋下氏は株主総会での提案に意欲を見せる」(20111119日 朝刊)

11月27日大阪ダブル選挙以降の記事では脱原発は消え、脱原発依存と表現されている。しかし脱原発と脱原発依存の違いに言及した解説は一度も掲載されていないし、過去の脱原発を訂正した記事もない。

一つだけ橋下氏が脱原発でないことを看破した記事があった。
「(大阪決戦 秋 ちょっと言わせて)命の問題、考え聞こう 山本太郎さん 【大阪】
マニフェストで、平松さんは次世代エネルギーの推進を掲げるけど、『脱原発』の文言がなく、言い方が弱い。橋下さんは株主の権利を使って原発の依存度を減らすと言っているが、『いつまでに』という肝心なところがない。僕からは2人に大きな差は感じられない」(20111119日 夕刊)

今回は朝日の記事しか入手できなかったので朝日新聞の検証しかできなかった。他の報道機関がどう報道したかも検証してほしい。報道機関自らの検証も期待する。なぜ橋下徹=脱原発のイメージがつくられたのか。この点をよく考えてみると、橋下維新ブームの謎も解明できるような気がする。

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