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2012年9月1日土曜日

転載 「2007年の閣議決定」を理由に「河野談話」の意義を低め、あるいはその見直しを求めた橋下市長発言(8月24日)の事実誤認を指摘する


2007年の閣議決定」を理由に「河野談話」の意義を低め、あるいはその見直しを求めた橋下市長発言(824日)の事実誤認を指摘する

2012828
日本軍「慰安婦」問題解決に向けた意見書可決をすすめる会

橋下市長は824日の記者会見で、政府が「慰安婦」問題での「お詫びと反省の気持ち」を述べた「河野談話」(2003年)について、要旨次のように述べられました。
 ➀「2007年の閣議決定」では「慰安婦」の強制連行を裏付ける直接の記述・証拠はないことが確認されている、それは「河野談話」を「見直す」か、閣議決定が「間違って」いるかの「どちらか」という関係に立つものであり、➂閣議「決定」は河野「談話」より上位に立つのだから、「慰安婦」問題については「河野談話」でなく「2007年の閣議決定」こそが「日本政府の決定」である。
 しかし、市長のこの発言は「2007年の閣議決定」に対する重大な事実誤認の上に立つものと言わねばなりません。
 2007年に開かれた105回の閣議の中で、直接「慰安婦」問題にかかわった案件は9件ですが、これらはいずれも日本政府の基本的な立場が「河野談話」を継承するものであることを明示しています。
 今回の橋下市長発言の根拠と目されるものは、316日の次の閣議決定(答弁第110号)に含まれる次のアンダーラインの部分です。
「お尋ねは、『強制性』の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。
  調査結果の詳細については、『いわゆる従軍慰安婦問題について』(平成五年八月四日内閣官房内閣外政審議室)において既に公表しているところである・・・」。
 しかし、上の「決定」は、アンダーライン部分の主張をもって「河野談話」の否定を意図したものではありません。
 それは、同じこの「閣議決定」が、「慰安婦」問題に関する「政府の基本的立場は、官房長官談話を継承しているというもの」だと明言し、「官房長官談話は、閣議決定はされていないが、歴代の内閣が継承しているものである」、「慰安婦」への謝罪については「官房長官談話においてお詫びと反省の気持ちを申し上げているとおりである」と述べていることに明らかです。
 「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」。それにもかかわらず、日本政府は「河野談話」を「継承」するというのが、この「閣議決定」の論旨なのです。
この点については、420日の「閣議決定」(答弁第169号)が、さらに明快に日本政府の立場を示しています。
「(河野談話は)政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、当該談話の内容となったものであり、強制性に関する政府の基本的立場は、当該談話のとおりである」。
繰り返しておきましょう。「強制性に関する政府の基本的立場は、当該(河野)談話のとおりである」というのが、この「閣議決定」の内容です。
「河野談話」は、政府諸機関に残された文書資料だけでなく、「元軍人等関係者」や「元従軍慰安婦の人たち」からの聞き取り、米国公文書の調査、沖縄の現地調査、さらに内外の多くの文献を参考にまとめられています。上記「閣議決定」は、「これらを全体として判断した結果」、「強制性に関する政府の基本的立場」が「河野談話」のとおりであることを再確認するものになっているのです。
 「河野談話」は、「慰安婦」の連行に関する「強制性」について次のように述べています。
 「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」。
 「2007年の閣議決定」は、このことをしっかり「決定」するものになっています。
 さらに追加しておけば、同じ420日の「閣議決定」(答弁第168号)や、65日の「閣議決定」(答弁第266号)は、中国やインドネシアでの個別事案をめぐり、強制連行の事実を認定した上での極東軍事裁判所やバダビア臨時軍法会議の判決に、国はこれを「受諾」し、これに「異議を述べる立場にない」こともはっきりと確認しています。
 以上の検討結果を踏まえるなら、「2007年の閣議決定」を理由に「河野談話」の意義を低め、あるいは見直しを求めた橋下市長の発言には、何の客観性も正当性もありません。そこにあるのは「2007年の閣議決定」に対する市長の事実誤認、それだけです。
 私たちは、あらためて橋下市長に、次のことを強く求めたいと思います。
「日本の政治家の責務として、橋下市長には『慰安婦』問題の歴史と関連する戦後政治史の事実、さらには戦時性暴力の克服をめざす現代国際社会の努力を、広く、しっかり学んでいただくことを要望する」。
市長にはこの要望を、ぜひとも深く、あらためて胸に刻んでいただきたいと思います。

以上。

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