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2011年10月10日月曜日

「娘に語る祖国」つかこうへいの歴史認識・人生・祖国


 つかこうへいのエッセイ「娘に語る祖国」を読んだ。つかは韓国籍の在日韓国人2世であり、現代日本を代表する劇作家・演出家・小説家(1948424 - 2010710日)であった。私はアジアの中で生きていくには、在日韓国人・朝鮮人の気持ちと考えを理解することなしにはできないと考えている。この本で書かれた、つかの歴史・人生・祖国についての考えに共感を覚えた。

 つかは過去の歴史について端的に書く。「戦前、日本は大東亜共栄圏とつくるという構想のため(アジアが心を一つにするということですが、早い話、植民地をつくって奴隷に働かせようとしたのです)、朝鮮や満州(いまの中国東北部)を侵略しました。」事実を思い起こすと「むらむらと憎しみの炎が燃えあがる」と。
しかし「でも、侵略された方も、威張れるところはないのです。もし立場が逆になって韓国が戦争に勝っていたら、韓国だって日本と似たようなことをしていたと思います。」と冷静に突き放してみている。もちろんこれは過去の日本の行為を是認する意見ではない。
つかは娘に「人の傷みや哀しさのわかる人」になってほしいと言う。そして「文化とは、恥の方向性だと思う。」なにを恥と思うか、なにをはしたなく思うかが大切なのだ。「恥のない人間はクズです」と断じる。つかの弁をかりれば、過去の戦争をいまだに「侵略戦争ではない、アジアの解放の戦争だった」と言い続ける人たちは、人の傷みや哀しさのわからない、恥を知らないクズと言える。

 「昔、奴隷のように扱われたといって恨むのではなく、奴隷のように扱われるにふさわしい、その程度の国であり、国民であった」とひらきなおって考えろと極言する。「昔差別されたことを、水戸黄門の葵の印籠見たいして生きていくのは、パパは男らしくないと思うのです。」「血だの、民族の誇りだのなんてことを、男が言っていられますか。パパには、もっと大切なお仕事がある」卑屈になるな、誇れる仕事をしようと呼びかける。
つかは仕事についてこうも書いている。「人間誰しも強いところと弱いところを持っています。その時々に強さを選択したり、弱さを選択したりするのです。パパは、その弱さを選択した人を少しでも勇気づけられるような仕事をしていきたいと思っています。」

つらい目にあって、くじけそうになったり卑屈になったりした時、「目の前にいる人を信じて生きてほしいと思っています。信じて、騙され、傷ついても、その時は例の『明日はきっといいことがある』です。」「とにかく一晩眠って、それから考えよう」「『明日はきっといいことがある』、そう思ってください。」こんな屈託のなさが人生の秘訣なのだ。

 つかは祖国についてこう書いている。
「祖国とは、おまえの美しさのことです。ママの二心のないやさしさのことです。パパがママをいとおしく思う、その暑さの中に国はあるのです。二人がおまえをかけがえなく思うまなざしの中に、祖国はあるのです。そして、男と女がいとおしく思い合う意志の強さがあれば、国は滅びるものではありません。」
 家族を大切に思う心。そして自分と家族につながる人たちを大切に思うこころなかに祖国はある。つかはがんで死ぬことを覚悟した遺書の中で「しばらくしたら、娘に日本と韓国の間、対馬海峡あたりで散骨してもらおうと思っています。」と書いている。国籍がどこかではなく、彼につながる人々がいるところが彼の祖国だったのだ。

 これから我々がアジアで生きていくために、多くのかたが一読されることを希望する。

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