TPPは、2006年にニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4ヵ国が発効させた、貿易自由化を目指す経済的枠組みです。工業製品や農産品、金融サービスなどをはじめとする、加盟国間で取引される全品目について関税を原則的に100%撤廃しようという協定です。2015年をめどに関税全廃を実現するべく協議が行われています。その協定にベトナム、マレーシア、アメリカ、オーストラリア、ペルーが参加しようとしていますそこで日本も遅れを取らないで急いで参加しようというのです。
菅首相はTPP参加を「近代化の途を歩み始めた明治の開国、国際社会への復帰を始めた戦後の開国に続く、『平成の開国』元年にしたいと思います。」と述べています。開国は明治ではなく、江戸末期の安政です。大老井伊直弼が朝廷の勅許なしに行ったことです。今回も国民の理解ないまま強行されれば同じ間違いをすることになります。国民にとっては突然「平成の開国」と言われても、TPPならぬトッピな話に戸惑うばかりです。
さらに菅首相は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加の是非を6月までに判断すると表明しました。まるで普天間問題を10年5月までに決着を付けると言った鳩山前首相のようです。それをうけ経済同友会の桜井正光代表幹事は「躊躇していると大変なことになる」と述べ早期参加による「平成の開国」を強く求めています。遅れをとると韓国に負けるぞと浮き足立ち、「黒船がせめて来る」と腰を抜かした幕府の重臣の様や、これで一儲けしようという悪徳商人の姿を彷彿とさせます。
安政の開国の当否を論じるつもりはありません。開国は歴史の必然だったでしょう。しかしその時に黒船の脅迫で押し付けられた不平等条約が明治の日本を苦しめ、その改訂が一連の侵略戦争の大義名分になってしまいました。1907年にようやく撤廃されたのです。その不平等条約の最大の問題点が関税を自主権利が奪われたことだったのです。今回のTPPは関税自主権を自主的に放棄しようとするものです。
関税自主権とは、自国の関税を自由に決められる権利のことです。関税がないと、外国から安い品物が輸入できてよいようですが、外国から安い製品が無制限に入ってくると自国の産業で崩壊する分野が出てきます。そうならないように関税をかけて自国の産業を保護しているのです。世界は一つの市場として可能なかぎり関税を撤廃する方向で動いていますが、関税自主権は留保した上で自国の重要産業の保護・育成と両立するものでなければなりません。今回のTPPは重要産業である農業に壊滅的打撃を与えます。日本のTPP参加に反対します。自由貿易協定では先行している韓国は2国間で自由貿易協定を締結していますが、例外として農業をその枠から外しています。
TPPは例外のない自由化を唱っています。日本がアメリカ・オーストラリアとともにTPPに参加すれば、日本の農業はこの二つの農業輸出大国により壊滅状態にされるに違いありません。農水省はコメなど主要農産物19品目の関税を完全撤廃し、政府が農業支援策を何も講じない場合、食料自給率(カロリーベース)が現在の40%から14%に低下、関連産業を含め実質GDPを1.6%(7.9兆円)、就業機会を340万人程度減少させると推計しています。食糧危機が予測されている時に食料自給率を低下させることは国民の安全保障を損なうものです。また国の農林水産業が崩壊することは国土の荒廃を招くことも容易に想像されます。すでに多くの国民が反対の意思を表明しています。
アメリカが本当に信用できるのかという問題です。これまでの経過をみても、日本に農産物の自由化を執拗に迫ってきた一方で自動車や電気製品の輸入に高率の関税をかけて自国の産業を保護してきたアメリカが日本に対して例外のない関税の撤廃をするのかという問題です。日本の自動車産業や電機産業の実力から見てアメリカの産業界が容認するとは考えられません。もしそうするなら二枚舌のペテンを準備しているに違いありません。
現在のTPPがニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの発展途上国4国で構成されている限りは大きな問題がないのかもしれません。しかしそこにアメリカや日本のような先進国が同じ条件で入ることは、本当に先行4国の利益になるのでしょうか。私は利益にならないと考えます。自国の産業の育成を犠牲にして工業先進国の製品が流れこむことを容認する国がどこにあるのでしょうか。日本のTPP参加反対の立場から先行4国への働きかる必要があります。
国民生活の守り向上させるためには適正な経済発展が必要です。そのためには外国にものを多く売ることしかないという外需一辺倒の政策から脱却する時です。内需をどう増やすかそれが課題になっています。民主党のマニュフェストにあった国民生活第一にもどる時だと思います。貿易では今後も様々形の自由貿易協定が検討されるでしょう。しかしその前提はそれぞれの国の経済発展・産業発展を阻害しないものしなければなりません。力の強い国・企業が独り勝ちするような自由貿易協定はどんな形であっても許してはなりません。
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