Translate

2011年7月31日日曜日

日本の原発技術が世界を変える 豊田有恒 祥伝社新書

一度読みたいと思っていたこの本。まだあるかと心配しながら、書店に駆け込んだ脱原発本がメジロ押しの中でようやく見つけた。 この本は1012月に出版されている。東日本大震災・福島第一原発事故の3か月前に、原発推進(豊田氏は自分を原発批判派と)の主張がどのようにされていたか知る絶好の資料である。

 主旨は以下のとおりである。わが国の原発技術が世界最高の水準である。世界は原発を必要としている世界一安全な原発を広めることが、この上ない世界貢献の道だというのである。なぜ世界一安全か。安全性・信頼性の尺度は、運転時間あたりの非常運転停止の回数である。日本の原発の非常停止は、運転7000時間あたり、0.07回という驚異的な少なさだ。2位のドイツでも、0.12回、アメリカが0.28回、フランスが0.59回。日本が世界一安全だ。また、安全性を保守するのは放射能を閉じ込める5重の壁である。その壁の一つである原子炉圧力容器は日本の一メーカーが全世界の八割のシェアを占めている。そして、07年7月の新潟県中越沖地震での柏崎刈羽原発では、原子炉本体への損傷がまったくと言っていいくらいなかった。地震が日本の原発の安全性を証明した。
 
 本書では、津波も全電源喪失の想定も出てこない。

 著者の主張を踏まえれば、世界一安全な日本の原発で今回の重大事故が起こったのだから、世界中の原発はすべて危険で廃棄すべきということになるのではないか。

 私は本書が今の書店の書棚にあるのは著者と出版社の見識だと思う。少なくとも11311日以前は原発推進・容認の意見が多数であったのは事実である。多くの原発推進論者が、息をひそめて議論を避けている。今こそドイツで行われたような国民的議論をする時だ。311日以前はどう考えていて、今どう考えているか、なぜそう考えるかを明らかにする必要がある。

 113月を経験して、今どう考えているかを明らかにすることを著者と出版社に望む。それが文筆家の使命である。

0 件のコメント:

コメントを投稿