8月19日午後、訪問診療だ。今日も暑い。でもあれだけうるさかったセミの声が小さくなっている。日差しの角度が少し低くなっている。夏も峠を越えたようだ。
安井さんの家だ。今日は1ヶ月の地域医療研修に我がクリニックに来た2年目研修医中村医師も一緒だ。血圧は相変わらず高い。「最近眠れない」と言われる。「もう少し涼しくなったら外に出ましょう。身体を動かせば夜眠れるようになります」と言った。いつものように持参した薬を飲んでもらった。
今日もラジオがかかっているので、「テレビの調子はどうですか」と聞いた。「故障して映りません。電器屋さんを呼ぼうと思います。野球をみたいです。」アナログ放送停止のことはまだよく理解できないようだ。でもはじめてやせ我慢をせずに、テレビを観たいと言われた。明日は高校野球の決勝戦だ。
テレビのスイッチを入れるとやはり砂嵐だ。「困ったね。チューナーだけ送ってきても見られませんよね。勝手に電波を止めておいて、無責任ですよね。」と山田看護師。すると中村医師、「僕がやってみましょう」と説明書をみながらチューナーの配線のやり直しを始めた。安井さんは「このごろ若い先生は電器屋さんもするのですか」と嬉しそうに言う。中村医師は手を動かしながら「そうですね。うまくできたら医者と電器屋さんをします。」と答える。
5分程かかっただろうか、中村医師がスイッチを入れると。テレビが映った。その瞬間安井さん、中村医師、山田看護師、そして私の四人で歓声をあげて拍手をした。一人暮らしの秋田さんの家で歓声が上がったのは何年ぶりだろうか。みんなで歓声をあげて拍手をしたことが嬉しかった。いつも早く死んだ方がましと言っている安井さんが拍手をして嬉しそうな顔をしている。私はこころの中で「長生きしているといいこともあるでしょう」とつぶやいた。
帰りの車の中で「今日の一番の成果は安井さんのテレビが映ったことだ。映ってよかった。実はもう一人テレビが映らなくて困っている人がいるんだ。小林さんという人で」というと、中村医師は「小林さんもテレビが映らないのですか。今日の午前にヘルパーさんと一緒に訪問して話をしてきたんです。あした時間を見て自転車でテレビの設定に行ってきます」と言ってくれた。
私はいい医師が育っている、まだまだ日本には未来があるなと思った。今日は本当にいい一日だった。
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